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    暇だから俺が書いたショートショートうpしようと思う

    http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1395762564/
    1: 名無しさん 2014/03/26(水)00:49:24 ID:j3kZxyClM

    読んでくれる人いるならあげてく


    2: 名無しさん 2014/03/26(水)00:50:40 ID:8fuLXzZoX

    読みたい


    3: 名無しさん 2014/03/26(水)00:51:10 ID:ItGeFWUaJ

    よしじゃあ>>2のためにあげてく


    4: 名無しさん 2014/03/26(水)00:51:27 ID:Oz3f2PnBS

    俺のためにはあげてくれないのか




    5: 名無しさん 2014/03/26(水)00:52:24 ID:ItGeFWUaJ

    【アパート】

     チャイムが鳴った。男は、立ち上がり、玄関まで歩いていって、ドアスコープを覗き込んだ。
     立っていたのは管理人のようだった。男はチェーンをはずして、ドアを押し開けた。
    「やあ、こんにちは」
     管理人が丁寧な挨拶をしてきたので、男も頭を下げた。玄関口に取り付けてある機械がきゅるる、と音をたてた。


    7: 名無しさん 2014/03/26(水)00:52:53 ID:ItGeFWUaJ

    「これはこれは、どうもご苦労様です」
    「調子の方はどうです? そろそろ、ここにも慣れてきたころでしょう」
     男がここに住み始めたのはごく最近のことである。
    「ええ、まあ、ぼちぼちですね。それより、今日はどうしたんですか?」
    「いえ、実はね、差し入れをと思って。作りすぎちゃったから、これ」


    8: 名無しさん 2014/03/26(水)00:53:16 ID:ItGeFWUaJ

     そう言って、管理人は中身の入った半透明の容器を男に渡した。受け取ってすぐ、男はその蓋を開いた。
    「おや、これは肉じゃがですか。いいですね。故郷のことが思い出される。久しぶりに、お袋の作ったやつを食べてみたくなりましたよ。わざわざ、ありがとうございます」
    「いえいえ、お気になさらず」
    「ちょっと待っててください、すぐに仕舞ってきます」
     男は容器を持って部屋の中に戻り、間もなくして戻ってきた。


    9: 名無しさん 2014/03/26(水)00:53:48 ID:ItGeFWUaJ

    「いやあ、これで、しばらくおかずには困りません」
    「あまり味には期待しないでください。料理なんてほとんど作ったことがありませんし、あなたの故郷の料理を真似た程度ですから」
     管理人は笑って言った。
    「とんでもありません。頂けるだけでありがたい」
     男は頭を掻いた。管理人も、毛のない頭を撫でた。それから自分の目を指差して、
    「そういえば、視力の方はずいぶん回復されたようで。一過性のものだったそうですが、もう日常生活には困らない程度に?」


    10: 名無しさん 2014/03/26(水)00:54:11 ID:ItGeFWUaJ

    「まあ、そうですね。最近はもう、すっかり。見えなくなっていたのも、それはそれでいい体験になりましたよ」
    「それもそうだ。視界がなくなるなんて、滅多に体験できることではありませんものね」
     男と管理人はお互いに笑った。
    「いやしかし、あれは改善するべきかもしれませんね。光が強すぎて、目を焼かれるなんて、大変なことです」


    11: 名無しさん 2014/03/26(水)00:55:04 ID:ItGeFWUaJ

     男は頷いた。
    「確かにそれもそうだ。経験者の私が言うのだから間違いない」
    「では、私の方から改善をするように伝えておきます」
    「ええ、お願いします。私みたいにUFOを見ただけで失明寸前になる者がいてはいけません」
    「それでは、また」
     管理人が立ち去ったので、男はドアを閉めてチェーンをかけた。
    この部屋は、地球の雰囲気に似せてある。男にとってはとても快適だ。唯一、外から見られることを除いて、だが。しかしまあ、男はここには自分で望んで来ているのだから、我慢をしなくてはならない。


    12: 名無しさん 2014/03/26(水)00:55:53 ID:ItGeFWUaJ

       ***

     リックは、父親と共に動物園に来ていた。
    「ねえ、父さん。あの生き物はなに?」
     透明な壁の向こうを見て、リックが父親に尋ねた。
    「あれかい? ええと、なんて書いてあるのかな」
     父親が目を凝らした先には、こう書かれていた。

    『地球人』


    13: 名無しさん 2014/03/26(水)00:56:04 ID:ItGeFWUaJ

    これで一本


    14: 名無しさん 2014/03/26(水)00:56:59 ID:8fuLXzZoX

    星さん風の正統派だね


    15: 名無しさん 2014/03/26(水)00:57:30 ID:ItGeFWUaJ

    >>14
    彼のことは尊敬しているからそう言ってもらえると嬉しい


    16: 名無しさん 2014/03/26(水)00:59:15 ID:ItGeFWUaJ

    まだいくつかストックあるけどどうしよう


    17: 名無しさん 2014/03/26(水)00:59:39 ID:PklexYtHH

    面白かったからみたい!


    18: 名無しさん 2014/03/26(水)00:59:45 ID:w9g1RBsos

    みてるぜ
    読みたい


    20: 名無しさん 2014/03/26(水)01:00:37 ID:ItGeFWUaJ

    お前らありがとう。
    さっきうpしたのが最新だから、これからどんどんクオリティ下がるが勘弁な


    21: 名無しさん 2014/03/26(水)01:01:36 ID:ItGeFWUaJ

    一年前に書いたショートショート処女作です///


    【結末】

    「というわけで紺田さん、よろしくお願いしますね」
     受話器を通して、私があなたの担当です、と自己紹介をした井川さんは、翁談社で働いている編集者だそうだ。
     どうやら僕は作家としてデビューできるらしい。何となく応募した推理小説が木戸川乱走賞を受賞したのだ。木戸川乱走賞といえばあの木戸川乱走賞である。推理作家への登竜門と言われ、受賞した作家は翁談社の強いバックアップにより、のちのち活躍できる作家も多いあの賞だ。とても現実だとは思えない。


    22: 名無しさん 2014/03/26(水)01:02:03 ID:ItGeFWUaJ

    「紺田さん、聞こえてますか?」
     そういえば通話中だった。
    「あ、はい、大丈夫です。まさか自分が受賞できるなんて考えてもみなかったので驚いてしまって」
     僕がそう言うと、井川さんはうんうんと頷いたようだ。
    「わかりますわかります。受賞された方は皆さん口を揃えてそう言います。自分が絶対受賞すると思っていた、なんて言ってる方のほうが珍しいですよ」
     それもそうか。そこまで自信を持っていたところで受賞できるというわけでもないだろう。むしろ僕みたいになんとなく……というほうが多いのではないだろうか。


    23: 名無しさん 2014/03/26(水)01:02:22 ID:ItGeFWUaJ

    「あ、それと、受賞された紺田さんの作品『偶然の殺意』の刊行時期ですが、年明けくらいになるかと思います。それまでに誤字脱字などの訂正お願いしますね」
     なるほど、確かに気合いを入れて書いたわけではないからそういうのは多いかもしれない。一応、応募前に推敲はしたのだが、いくらかは残ってしまったのだろう。
    「わかりました」
     井川さんはそれで今言わなければならないことは全て言ってしまったようで、失礼しますと言うと電話を切った。そのあとしばらく、僕は受話器を握ったまま放心してしまっていた。


    24: 名無しさん 2014/03/26(水)01:02:40 ID:ItGeFWUaJ

    「へぇ、あなたが木戸川乱走賞にねぇ」
     木製のダイニングテーブルを挟んで、僕の向かいに頬杖をつきながら座っている妻の章子がつまらなさそうに言った。亭主が全国的に有名な賞を受賞したというのにこのババアはなんて薄情なんだ、というのを口に出せるような立場ではないので、僕は大人しく頷いた。僕の方が二つほど年上なはずなのだが。
    「木戸川乱走賞ってあれでしょ? 西野圭介とか東村本太郎とかが受賞したことのあるっていう」
    「あ……ああ」
     なんだ、意外に詳しいんじゃないか。まあ僕が好きな作家だというのもあるのだろう。僕が感心していると、章子はまたしてもつまらなさそうに呟いた。


    25: 名無しさん 2014/03/26(水)01:02:58 ID:ItGeFWUaJ

    「ああ面倒」
     どうして面倒なんだ。
    「亭主が作家なんて、自慢できるじゃないか」
     勇気を出してそう聞くと、章子は苦虫を噛み潰したような顔をした。
    「そうじゃなくて、近所の人から嫌味みたいなこと言われるんだもの。『印税とかすごいんでしょう?』みたいに」
    「そうか……」
     何を言っているんだこのババアは。亭主が作家デビューするんだぞ、それを喜ばずに近所付き合いのことばかり気にしやがって、人間性が疑われる。口には出さなくとも、僕は心の中で激しく罵倒した。口に出すと即離婚、たんまりと慰謝料を請求されるに違いない。ああ、なんで僕はこんなババアと結婚したのだろうか。


    26: 名無しさん 2014/03/26(水)01:03:15 ID:ItGeFWUaJ

     そんなことを考えている僕を差し置いて章子は、
    「まあいいわ。取り敢えずお金さえ稼いでくれたら高級マンションでも買って、そこに引っ越すわ」
     一言くらい「すごい」だの「よかった」だのといった言葉を口に出そうとは思わないのだろうか。そうだ、僕は作家になるのだ。たんまりと印税が入れば、このババアに払う慰謝料なんて痛くも痒くもない。
    「いい加減にしろ、このクソババア!」
     魔が差すとはこのことだろうか。気がついたら僕は章子に対して怒鳴り声をあげていた。


    27: 名無しさん 2014/03/26(水)01:03:31 ID:ItGeFWUaJ

     離婚届に署名してやった。後悔なんてするはずもない。むしろ溜まりに溜まった鬱憤を晴らせて清々しいくらいだ。慰謝料などについては近いうちに話し合おう、とのことだ。しかし不思議なことに、僕がローンを組んで僕の名義で買ったはずの家を追い出されてしまった。仕方がないので今晩はビジネスホテルに泊まることにした。
     ベッドに入ると、昼間に井川さんが言っていたことを思い出した。絶対に受賞すると思っている人が落選して、僕みたいな人間が受賞してしまった。僕は別に作家にならなくても食ってはいけたが、もしかしたら今回の木戸川乱走賞に人生を賭けていた人もいたかもしれない。そう考えると、僕が受賞したのはおかしな話ではないだろうか。


    28: 名無しさん 2014/03/26(水)01:03:44 ID:ItGeFWUaJ

     不意に『偶然の殺意』を思い出した。この話の犯人は計画的犯行を行ったわけではなく、急に湧き上がった殺意により殺人を犯した。まるで僕みたいだ。犯そうと思って殺人を犯したわけではない犯人と、受賞されようとして受賞されたわけではない僕。犯人はうまく警察の捜査の手を掻い潜っていくが、最後には追い詰められてしまう。僕も成功するのは最初だけではないだろうか。いや、それどころか少しもうまくいかないかもしれない。そうなると家のローンや章子から請求される慰謝料は払えない。そうなれば僕はどうすればいいのだ。
     そこまで考えて思い出した。そういえば『偶然の殺意』の最後には――


    29: 名無しさん 2014/03/26(水)01:04:21 ID:ItGeFWUaJ

       ***


     数日後、新聞の一面に小さくこのような見出しの記事が載せられた。
    『木戸川乱走賞受賞作家自殺』

    おしまい



    うーん、いま読むとなんとも言えないクオリティ


    30: 名無しさん 2014/03/26(水)01:05:20 ID:PklexYtHH

    おお、なかなか好きだよこういうかんじ


    56: 名無しさん 2014/03/26(水)01:19:22 ID:ItGeFWUaJ

    >>30
    ありがとう


    32: 名無しさん 2014/03/26(水)01:06:48 ID:ItGeFWUaJ

    『結末』は東野圭吾さんをかなり意識したような気がする


    33: 名無しさん 2014/03/26(水)01:07:35 ID:w9g1RBsos

    最後にあっ…、ってなるのが面白い


    56: 名無しさん 2014/03/26(水)01:19:22 ID:ItGeFWUaJ

    >>33
    たまに人に「オチがわからない」って言われるんだけどねww


    34: 名無しさん 2014/03/26(水)01:08:27 ID:ItGeFWUaJ

    次いきます

    【欲深き】

     昔々あるところに、桃太郎という勇敢な若者と、犬、猿、雉と呼ばれた三人のお供がおりました。
     桃太郎と三人のお供は鬼ヶ島で都を荒らす鬼を退治しました。そしてたくさんの財宝とお姫様を取り返しました。その帰り道のことでした。
    「なあなあ桃太郎さん」
    「どうしたんだ、猿」
     悪知恵のよくはたらく猿はにやにや笑って言いました。
    「俺たち危険を冒してまで鬼退治をしたんだぜ。だったら取り返した財宝を少しくらい貰っても罰は当たらねえんじゃないか?」
    「何を言っているんだ。これらの財宝は全て都の罪なき人たちのものだったんだぞ」


    35: 名無しさん 2014/03/26(水)01:08:58 ID:ItGeFWUaJ

     桃太郎はそう言いましたが、猿は諦めませんでした。
    「桃太郎さん、今ここで財宝を盗っちまってもばれねえよ。そもそも俺たちが鬼退治に行っているなんて、あんたんとこの爺婆くらいしか知らねえ」
    「おい猿! お前は桃太郎さんに助けて貰った恩を忘れたのか!」
     猿の話を聞いて、犬が我慢できずに吠えました。犬は桃太郎に忠義を尽くしていました。犬も猿も雉も、飢えて死んでしまいそうなところを桃太郎に助けて貰ったのです。
    「そうは言うが犬よ、俺たちはきび団子一つで命を危険に晒したんだぜ。労働基準法に引っかかるとかそういうレベルじゃねえ」
    「私も猿の意見に賛成だね」


    36: 名無しさん 2014/03/26(水)01:09:16 ID:ItGeFWUaJ

     今まで黙って話を聞いていた雉が口を開きました。雉はとても聡明です。ですから、恩義より利益を優先します。
    「雉まで……」
     桃太郎は意見の対立に困ってしまいました。
    「当然ですよ、桃太郎さん。私たちはきび団子一つ以上の働きをした。それに、私たちがこうして鬼退治に行かなければこれらの財宝も取り返すことはできなかった。それに見合った見返りをいただいたところで都の誰も文句は言いませんよ。だから、」
    「俺はそういうことを言ってるんじゃないんだ、雉」
     雉はまくし立てましたが、桃太郎はそれを遮って言います。


    37: 名無しさん 2014/03/26(水)01:09:37 ID:ItGeFWUaJ

    「大事なのは都の人たちのためにこうして鬼と戦って勝った、ということなんだ。そしてそれは名誉あることなんだ」
     雉はそれを聞いて、呆れたように言いました。
    「桃太郎さん、名誉も見返りでしょう。あなたは名誉を求めているが、私たちは財宝を求めている。これに何の違いがあるのですか?」
     今度こそ桃太郎は何も言い返せませんでした。雉の言うことは何も間違っていないのです。桃太郎が黙ったのを見て、猿が追い打ちをかけました。
    「桃太郎さん、認めちまえよ。あんたは自分の欲のために鬼退治をしたんだろ?」
     猿はにやにや笑って言いました。
    「俺は、俺は……」


    38: 名無しさん 2014/03/26(水)01:09:55 ID:ItGeFWUaJ

     桃太郎が頭を抱えて膝をつくのを見て、犬は心配しました。
    「桃太郎さん……」
    「俺は……俺は!」
     しかし、犬の心配は無用でした。自分の信念を貫くために桃太郎は立ち上がったのです。桃太郎は猿と雉を睨みつけて言いました。
    「俺は自分の欲の為ではなく、心から都の人たちを助けようと思って鬼を退治したんだ。財宝を都の人たちにそのまま返さなくては意味がない」
    「じゃあ、あんたは見返りを必要としないと?」
     猿の問いに、桃太郎は頷きました。
    「ああ、そうだ」
    「どうやらあなたたちと私たちは分かりあえないようですね」


    39: 名無しさん 2014/03/26(水)01:10:07 ID:ItGeFWUaJ

     雉はそう言うと、桃太郎に飛びかかりました。猿もそれに続いて、犬の背後に回りました。
    「力尽くでも、都に財宝を持って帰る!」
    「桃太郎さんにこの命預けます!」
     桃太郎の叫びに犬が応えました。
    「意地でも財宝を奪ってやる!」
    「働きに見合った報酬は頂きますよ!」
     猿と雉も叫びました。
     そうして一人と三匹の戦いが始まりました。


    40: 名無しさん 2014/03/26(水)01:10:31 ID:ItGeFWUaJ

       ***

    「でも、本当によかったのか? あいつらはあんたを都に連れ帰ろうとしたんだろう?」
     鬼ヶ島の洞窟で、鬼の棟梁が聞きました。
    「いいのよ。あのようなところ、もう二度と帰りたくない。それよりもあなたたちのような優しい方々と一緒にいた方が幸せだわ」
     お姫様は棟梁の膝に乗り、両腕を真っ赤な胴に絡みつかせながら答えました。棟梁はその頭を優しく撫でました。
    「そうか、それはよかった」
     すぐそばにいた青い肌をした鬼が棟梁に話しかけました。
    「しかしお頭、あいつらが仲間割れしてて本当に助かりましたね。真っ正面からだと勝てなかったですから」
     棟梁は頷き、
    「ああ、まったくだ。欲とは怖いものだな」


    41: 名無しさん 2014/03/26(水)01:11:12 ID:ItGeFWUaJ

    レス返せなくてごめんよ。
    何か質問とかあれば合間に答える


    55: 名無しさん 2014/03/26(水)01:19:03 ID:bDMIYi5sN

    >>40がよくわからん・・・ボス鬼に後つけられてたってこと?


    57: 名無しさん 2014/03/26(水)01:20:28 ID:ItGeFWUaJ

    >>55
    桃太郎一味が争い始める→その隙をついて鬼たちが姫をかっさらう→姫様鬼にゾッコンでした
    これは以前にオチがわかりにくいって言われたやつ


    42: 名無しさん 2014/03/26(水)01:13:18 ID:ItGeFWUaJ

    【人格改造プログラム】

    「それでは、担当の者を呼んで参りますので、少々お待ちください」
     そう言って、スーツの女性は部屋から出て行った。ドアが閉まる音が不安感を煽る。今から僕は、僕の知らない自分になるのだ。怖くない訳がない。
     この部屋は普通の会社の応接室のようだが、それよりもずっと壁は分厚いようで、外の音は全く聞こえない。そもそもここで話すことは他人に聞かれては困る――というより恥ずかしいことなのだ。きっとこの建物には他にも似たような部屋がたくさんあるのだろう。
     そんなことを考えていると、ドアを叩く音が聞こえた。入ってきたのは黒い表紙の分厚いファイルを抱えた男性だった。
     男性はさっきまで女性が座っていた椅子に腰掛けて、机の端にファイルを置いた。


    43: 名無しさん 2014/03/26(水)01:13:39 ID:ItGeFWUaJ

    「お待たせして申し訳ありません。橋本様の担当をさせていただきます、工藤と申します。よろしくお願い致します」
    「はぁ……」
     どうしても、彼の持つ黒いファイルから目が離せない。それを何かに例えるとすれば、映画なんかで機密文書が綴じられているようなファイルとでもいったところか。あれの中には一体どんな情報が入っているのだろうかなどと気になって仕方がない。
     そんな僕のことを、工藤さんは気にしてはいないようだった。
    「それでは、我が社が提供しているサービスについてご説明させていただきます。我が社では橋本様もご存知の通り、『人格改善サービス』を行っております」
    「はい」
     そのことが目的できたのだから知らない筈がない。
    「それでは、こちらをご覧ください」
     そう言って、工藤さんは端に置いてあったファイルをこちらへ向けて開いた。そこにはごちゃごちゃとした表や図が載っていた。


    44: 名無しさん 2014/03/26(水)01:14:06 ID:ItGeFWUaJ

    「あの……、これは?」
     一枚めくったところには『各コースの説明』という見出しが印刷されていた。
    「我が社では主にこの六つのコースをお客様にご提供させていただいております。その中でも特に人気なのがこちらの『パーフェクトコース』です。先ほど見ていただいたグラフの赤いものがこれの人気度を表したものですね」
    「なるほど……」
    「そして、こちらがコースの種類や料金をまとめたものになります。こちらのグラフは、どのコースをどれだけの人がご購入なさったのかを集計したものです」


    45: 名無しさん 2014/03/26(水)01:14:22 ID:ItGeFWUaJ

     そう言って彼が指差したところには、数本の棒グラフがあった。その中でも特に赤色の一本だけが他の四倍近くあった。恐らくこれが『パーフェクトコース』のものだろう。そういえば、こういうグラフというものは学生時代に見たっきりかもしれない。
    「ところで、橋本様はどのようになりたい、といったご希望はございますか?」
     そうだ、僕は自分を変えるためにここへ来たのだった。確かに親に無理やり行かされた感はあるが、結局は僕の意思なのである。ここでしっかり伝えられなければ、変わることなんてできないのだ。
    「あ……あの、僕、実はニートでして……それで、親にも迷惑を掛けているし、しっかりしたいなと思って……」
     ああ、全く駄目ではないか。数年間の引きこもり生活のおかげで、明らかに対話能力が低下している。しかし工藤さんの顔を見てみると、全く困ったふうではなかった。むしろ少し安心しているようにも見えた。


    46: 名無しさん 2014/03/26(水)01:14:38 ID:ItGeFWUaJ

    「わかりました。それでは橋本様には『パーフェクトコース』がよろしいでしょう」
     工藤さんは更にページをめくり、『パーフェクトコース』とやらの詳細が書かれたところを僕に見せた。どうやら今の説明で僕に必要なものが判ってしまったらしい。
    「こちらのコースは世間一般で『完璧』と言われている人格になれるようにこちらでカスタマイズしたものです」
    「あの、それはどんな感じなんですか……?」
     尋ねると、工藤さんは少し考えるような素振りを見せた。
    「そうですね……橋本様が完璧と思う人物像を思い浮かべてください」
     完璧――といわれても具体的には思いつかないが、リーダーシップがあるとか人格者であるとか、そんな感じの人物を思い浮かべる。それは僕とは似ても似つかない人物であった。


    48: 名無しさん 2014/03/26(水)01:14:55 ID:ItGeFWUaJ

    「そんな人物にあなたはなれるんですよ。まあ、もちろん運動神経や才能などはどうにもなりませんが」
     工藤さんがにやりと笑った。僕は今の自分から変われるのならどんな風でも良かった。
    「じゃあ、それでいいです、はい」
     そう答えると、工藤さんはファイルの中から一枚の紙を取り出し、僕の方に差し出した。
    「では、これに必要事項の記入とサインをお願い致します」
    どうやら契約書のようである。僕は躊躇いなくその用紙とペンを受け取り、一字一句間違いのないように書いていった。すぐに住所が思い出せなかった。父親からは金額に関しては気にしないといわれていた。しかし分割払いにするようにともあらかじめ言われている。


    49: 名無しさん 2014/03/26(水)01:15:26 ID:ItGeFWUaJ

    「書けました」
     工藤さんに渡すと、彼は記入に不備かないか確かめるようにじっと用紙を眺めた。少しして彼は顔をあげた。どうやら大丈夫だったようだ。
    「確かに受け取りました。それでは、処置の日程は後日お伝えいたします。本日はどうもありがとうございました」
     工藤さんが深く頭を下げたので、僕も慌てて頭を下げた。
     こうして僕は今までの僕から卒業することが決定したのである。


    50: 名無しさん 2014/03/26(水)01:16:06 ID:ItGeFWUaJ

       ***

    「橋本君、仕事終わったら呑みにいかない?」
     先輩に声を掛けられた。もちろん断る理由などない。
    「あ、いいですね。行きましょう」
     そうと決まれば仕事にも精が入るというものだ。僕は気合をいれて、点検作業に戻った。

     僕が生まれ変わってから一ヶ月が経った。
     あれから僕はすぐにバイトを見つけて働き始めた。今までずっと親に迷惑を掛けていたぶん、これから必死に働かなくてはならない。
    ニートをしていた頃には全く想像できなかったが、働くのも案外楽しいものなのである。職場の先輩は優しいし給料も悪くない。まだ働き始めたばかりで失敗もよくするが、それもきっと慣れればなくなるだろう。
    機械化の進んだこんなご時世であるが、未だに人間の手が必要なところもある。ロボットはただ任された仕事を行うことだけしかできない。そのため、その作業に不備があるかどうかを確認するのは人の目で行わなければならないのだ。とはいえ、全て人がやっていた頃に比べれば圧倒的に仕事は楽にはなっている。そんな仕事ですらやろうと思わなかった一月前の僕は本当に駄目人間だった。


    51: 名無しさん 2014/03/26(水)01:16:28 ID:ItGeFWUaJ

       ***

     現在、この国では『人格改善』が国家主導で行われている。
    世の中が便利になりすぎたせいで、怠け者――つまるところ、ニートと呼ばれる人種が増えた。もはやその増加率はこの国が抱える最も大きな社会問題のひとつである。しかし、いちど良くなってしまった環境を変えることはもはや不可能だ。
    そこで、政府は発想の転換をしたようである。変えるのを環境ではなく、ニートたち本人に絞ったのだ。そんな目的で開発されたのが『人格改善政策』である。ニートたちの人格を働き者の人格に変えてしまえば、このニート増加が逆転してむしろ減少に転じる筈だ。そういう政府の考えは見事に当たったようで、ニュースを見る限りでは最近は就業者が増えてきている。
    そんな中に橋本が入れたのも、両親のおかげである。感謝しても、し足りないだろう。

    それなのに橋本は三ヵ月後、自ら命を絶つのであった。


    52: 名無しさん 2014/03/26(水)01:16:53 ID:ItGeFWUaJ

       ***

    「社長。最近、我が社のサービスを利用した方が次々と自殺しているそうです」
     秘書は、何十万円もする椅子にどかっと座り込んだ社長にそう報告した。窓のほうを向いた社長は振り向きもせずに「知っている」と返した。
    「では、何か対策を講じなければ、このままではサービスの継続どころか会社の存続すら危うくなります」
     先ほどよりも強い口調で脅すようなことを言うが、それでも社長は落ち着き払っていた。
    「それでいいのだよ。全く問題ない」
     その言葉の意味を秘書は理解できなかった。
    「どういうことですか、社長。このままでは我が社は信用を失い、間違いなく倒れます」
    「国がバックについているではないか」
    「しかし……こんなことでは国にも見離されます!」


    53: 名無しさん 2014/03/26(水)01:17:10 ID:ItGeFWUaJ

     ここで、ようやく社長が秘書の方を向いた。しかしながら必死な秘書とは異なり、その顔には動揺など微塵もなかった。そして、彼はとんでもないことを言い放った。
    「そもそも、この自殺騒動は、起こるべくして起きているのだよ」
    「は?」
     理解の追いついていない秘書の様子を見て、社長は話を続ける。
    「現在、この国でニートの増加が社会問題になっているのは知っているね?」
     それくらいなら当然秘書も知っている。頷くと、社長は更に話を続けた。
    「そこで、ニートを減らすために『人格改善政策』がとられた。しかしながら、働く意欲があっても能力が伴わなければいけない。もはや肉体労働がほとんど必要ないこの社会で、労働意欲だけの能力のない人間は必要ないわけだ。そして政府は『人格改善政策』を利用してそういう人間の口減らしをすることにしたのだよ。簡単なことだ。植え込む人格の中に『労働と能力が釣り合わないようなら自殺する』というものを混ぜ込んだ。まあ、仕事が出来ない人間は自殺するようなプログラムを埋め込んだと考えればよい」


    54: 名無しさん 2014/03/26(水)01:18:08 ID:ItGeFWUaJ

     それは恐ろしい話であった。国家主導で国民を殺す――社長の言っていることはつまりそういうことだった。秘書はもはや言い返すことすらできなかった。知ってしまえば逃れることの出来ない闇を、自分は知ってしまったのだと悟った。
    「安心しなさい。能力さえ伴えば、自殺することはまずない」
     社長は笑った。
     その笑いは不気味で、まるで悪魔のようであった。


    おしまい

    お前らには申し訳ないと思ってる


    47: 名無しさん 2014/03/26(水)01:14:52 ID:8fuLXzZoX

    クセがなくていい文章だね。
    こういうのが書けないやつ多いから、このまま磨いてって欲しいです。


    59: 名無しさん 2014/03/26(水)01:22:49 ID:w9g1RBsos

    人格改造プログラムは、秘書もプログラムを受けてた、とか考えるとぞっとする


    60: 名無しさん 2014/03/26(水)01:23:49 ID:ItGeFWUaJ

    >>59
    三日で書いたから秘書とかそこまでは考えてなかった


    58: 名無しさん 2014/03/26(水)01:21:21 ID:ItGeFWUaJ

    ちょっと時間あけるね


    62: 名無しさん 2014/03/26(水)01:25:23 ID:8fuLXzZoX

    じゃあその間に感想。
    クセがない、とはいったけど、一本調子になりがちなのはいかんかな。
    オチとかネタばらしするとこは、もっと印象的な、派手な表現をしてもいいかも。
    そこだけ気になりましたです。


    67: 名無しさん 2014/03/26(水)01:28:50 ID:ItGeFWUaJ

    >>62
    よく言われる。
    あまりプロットとかたてずにインスピレーションで書くタイプだからかなぁ。
    話の内容はもちろん、表現の幅を広げて、そこでもどーんと魅せれるように精進します。


    70: 名無しさん 2014/03/26(水)01:32:14 ID:8fuLXzZoX

    >>67
    よく言われるんだw
    いい読者持ってるね。羨ましい。
    んでは寝ますんでまた明日読みます。うpありがとう。


    63: 名無しさん 2014/03/26(水)01:25:32 ID:r66EpvSpx

    でも面白いよ


    61: 名無しさん 2014/03/26(水)01:25:10 ID:ItGeFWUaJ

    次いきまーす。
    雰囲気ガラッと変わるよ

    【星降る夜に】

     もう日をまたごうかというような時間のことである。少女は窓の傍の椅子に腰かけて、じっと空を見上げていた。
    「今日も星を観ているのかい?」
     そう父親が尋ねると、少女は頷いた。
    「うん」


     少女は星を観ていた。
     毎晩、深い闇の中でぽつぽつ輝いている光を数えていた。
     その日数えた星も、次の日になったらリセット。決して全て数えようとはしない。そもそも少女の星数えは夜空に浮かぶ星の数を数えることが目的ではないのだ。


    64: 名無しさん 2014/03/26(水)01:25:44 ID:ItGeFWUaJ

    「今日は見えたかい?」
     そう父親が尋ねると、少女はかぶりを振った。
    「ううん、見えない」
     少女はため息をつくと、再び空を見上げた。


     少女の母親は病気で入院している。現在では治療法も確立された病気であるが、手術が必要なのだそうだ。しかしその手術もほぼ確実に成功するようなものである。それは少女も医者から聞いている。
     しかし、やはり少女は心配なのだ。
     世の中には絶対は存在しない。何事にも『万が一』ということがあり得るのだ。
     だから少女は願うことにした。


    65: 名無しさん 2014/03/26(水)01:26:12 ID:ItGeFWUaJ

     科学技術が発達したこの時代でも「流れ星が願いを叶えるもの」というのはよく知られている。根拠はなくても人々はそれを信じる。いつの時代にも迷信はあるものだ。
     少女はその流れ星に願いを掛けることにした。母の病が治りますように、と。


    「今日はもう遅いから寝なさい」
     父親は優しく微笑んで言ったのだが、少女はでも、と呟いた。
    「まだ流れ星見つけてない」
     少女の母親の手術は明日だ。だから、少女はなんとしても今夜中に願いを星に掛けたいのだ。


    66: 名無しさん 2014/03/26(水)01:26:46 ID:ItGeFWUaJ

     もちろん父親もそんなことはわかっている。しかし、この時期に流星群はないし、そう都合よく流れ星が見られるとは思えない。一晩中起きていて、結局流れ星が見られずに娘がショックを受けるのなら、自分が悪者になればいいと、そう思っているのだ。
    「いいから、もう寝なさい」
     父親がもう一度そう言うと、少女はしぶしぶ椅子から降りた。
     名残惜しそうに夜空を見上げていた少女が、あっと声をあげた。
    「どうしたんだい?」
     父親が尋ねると、少女は真っ暗な窓の外を指差した。
     そこには、星が光っていた。その光は何万光年も離れたところからやってきたものではなく、すぐ近くで輝くものだ。

     少女は願いを掛けた。少しずつ動いてゆくその星に、一生懸命に。
    壁に掛けられた時計の針が、真上を差して重なった。


    67: 名無しさん 2014/03/26(水)01:28:50 ID:ItGeFWUaJ

         ***

     デジタル表示の時計の数字が全てゼロに変わった。
     このまま死にゆくのだな、と男は思った。
     彼の乗る宇宙船は墜落の真っただ中である。地球に帰還するはずだったのが、エンジンが突然火を噴いたのだ。外部のトラブルであるため修理は出来ない。そのうえ、壊れた時には既に地球の重力圏に入っていた。
     当然だが、隕石と同じように空気摩擦で機体は燃え上がる。蒸し焼きにされそうな暑さの中、男は窓から外を眺めた。

     眼下に映る人口の光を見ながら、男は目を閉じた。


    おしまい

    結構描写を意識した作品。ネオ東京シティ的な


    68: 名無しさん 2014/03/26(水)01:31:12 ID:bDMIYi5sN

    もう3人死んでるぞ


    71: 名無しさん 2014/03/26(水)01:32:18 ID:ItGeFWUaJ

    >>68
    男子高校生が書いてる筈なのに登場人物の成人率と死亡率はやけに高いんだよな。
    なんでだろう


    69: 名無しさん 2014/03/26(水)01:31:32 ID:ItGeFWUaJ

    とりあえずまともなストックはこれだけでした。あとは駄作しかなかった

    見てくれてありがとう。


    73: 名無しさん 2014/03/26(水)01:33:37 ID:8fuLXzZoX

    ああ、ここまででしたか。残念。
    また今度ご縁があったらよろしく。面白かった。


    74: 名無しさん 2014/03/26(水)01:35:02 ID:ItGeFWUaJ

    あ、ごめん、探したらまだあと二本残ってた


    75: 名無しさん 2014/03/26(水)01:36:17 ID:bDMIYi5sN

    風呂はいるけど投下しておいてほしいな


    76: 名無しさん 2014/03/26(水)01:36:25 ID:ItGeFWUaJ

    せっかくなのでうpしていきます。

    【通勤電車 ~片道数十分の奇跡~】

     毎日家と職場の往復というものは精神的にくるものがある。癒しが何一つない。しかも路線の端と端の行き来である。そのせいで余計に疲れるのだ。
     しかし今日は嬉しいことが起きた。
     俺が電車に乗るときは、人が多くてほぼ確実に立つことになる。だが、今日は残業をしていたこともあり運良く座ることができたのだ。至福の時間である。
     車内に、車掌の綺麗な声でアナウンスが流れる。次の駅に着くようだ。人が入ってきてから席を詰めるのもあれなので、予め少しスペースをあけておく。席は埋まっているが、一人でも多く座れたほうがいいだろう。しかし、この時間の車掌が女性とは知らなかった。これからは残業を積極的にするのもいいかもしれない。


    77: 名無しさん 2014/03/26(水)01:36:46 ID:ItGeFWUaJ


     ドアが開き、入ってきたのは制服を着た少女のみだった。この辺りでは有名な私立女子高の制服だ。鞄にも校章が入っている。
    もう腕時計の針は八時半を回っている。こんな時間に……と思ったが、そろそろ文化祭の時期だった。きっと実行委員かなにかになって準備で忙しいのだろう。俺にもそういう経験がある。
    疲れきった顔をした彼女は、きょろきょろと車内を見まわしている。そして、俺の隣でその目線は止まった。なるほど、空席を探していたらしい。そのままこちらへ歩いてきて「隣、大丈夫ですか?」と申し訳なさそうに笑いながら聞いてきた。どうぞ、と返して座るように促す。すみません、と言って少女は身を縮めるようにして座った。
     さすが女子高校生と言うべきか。隣に座っているだけでも髪からすごくいい匂いがする。これが所謂女子力と言うやつなのだろうか。などと的外れなことを考えていると、少女が首を、かくん、かくん、と揺らし始めた。睡魔と闘っているようだ。頑張れ、名も知らぬ少女よ。
     ここまでくると、一人の男としてよからぬことを考えてしまうものだ。例えば「もたれかかってこないかなぁ」といった具合に。


    78: 名無しさん 2014/03/26(水)01:37:54 ID:ItGeFWUaJ

     するとその願いが叶ったのか、少女の身体が次第にこちらへと傾き始めた。
     偶然席に座れた日に、偶然女子高生が隣に座り、偶然居眠りを始めて、偶然こちらへ寄りかかってくる。これを奇跡と言わずになんと言うのか。
     そんなことを考えているあいだにも、少女の身体はだんだんと俺の身体へ近づいてくる。
     周りにいるおっさんからは羨望の眼差しを向けられ、女性からは軽蔑の眼差しを向けられる。だが、そんなもの今の俺は気にしちゃいない。この幸せな時間を堪能するのみだ。
     もうすぐ完全に少女の身体がこちらへ預けられる。その瞬間がくるときを今か今かと心待ちにする。しかしその刻はなかなか訪れない。慌てることはない、時間の問題だ。
     きた――!
     そう悟った瞬間であった。
    『――次はァー、終点――……』



    おしまい

    うちの部活の規定だと最後のアナウンスがちょうどページめくったところにくるんだよ。


    79: 名無しさん 2014/03/26(水)01:39:03 ID:ItGeFWUaJ

    最後はちょっとホラーチック。オチがわかりにくい作品です。

    【頭痛の種】

    「最近、頭痛が酷いんだ」
     以前、そう妻に漏らしたことがあった。今でもそれは治っておらず、ほとほと困り果てていたところだった。
     ある日妻が、友人からもらったという頭痛に効く薬というやつを私にくれた。漢方薬などに使われる植物の種だそうだ。アサガオの種のような、真っ黒で少し歪な形をしたそれはどこか不気味で、私にはどうしても薬には見えなかった。
     しかしながら妻からせっかくもらったものを捨てるわけにもいかないので、いくつか水で飲み込んだ。


    80: 名無しさん 2014/03/26(水)01:39:17 ID:ItGeFWUaJ

     それから三ヶ月ほどが過ぎたのだが、頭痛は良くなるどころかむしろますます酷くなっていた。
    妻からもらった種を飲んだのはあれっきりで、それからはずっと市販の薬を飲んでいた。確かに一時は良くなったのだが、再発してからの痛みは以前の比ではなかった。
    しかも、それに追い討ちをかけるかのように妻の浮気が発覚した。その相手とはどうやら半年以上の関係らしかった。もちろん口論になり、離婚することになってしまった。しかしまあ、こちらは全く慰謝料を払う必要がないのだから、別に後悔することはない。
    まだ離婚届は役所に出していないものの、口論のあった夜からは別居状態である。
    そんなことをしているうちにもどんどん頭痛は酷くなってゆき、日常生活にも支障が出るほどだった。
     仕事中に倒れこんだのをきっかけに、病院に検査に行くことにした。
     近所の市民病院で若医者からいくつかの質問をされたあと、ここまでの頭痛はやはり心配とのことで、MRIをとることになった。


    81: 名無しさん 2014/03/26(水)01:39:31 ID:ItGeFWUaJ

    「結果、どうでした?」
     聞くと、医者はモニタに表示した画像を私に見せてきた。その表情を見て、私はとても不安感を煽られた。
    「どこか……悪かったんですか?」
     医者は画面に映った私の脳を指差して、
    「ここを見てください」
     その部分は明らかにおかしかった。真っ白な楕円があり、その中の一部だけが真っ黒だった。
    「これは空洞です」
    「それは、つまりどういうことですか?」
     聞かなくてもわかる。というより、聞くだけ無駄だ。そんなことはわかっていて、それでも聞いてしまう。
    「簡単に言えば、命が危ない。脳の一部分にこれだけの空洞ができるということは普通は考えられません。何かが脳に入り込んだと考えるべきです。手術をして取り除きましょう」
    「助かるのでしょうか?」
     医者はかぶりを振った。
    「わかりません。五分五分……いや、もっと分が悪いかも知れませんでも、必ず治してみせます」
     結局、私は手術台に寝ることになったのだった。


    82: 名無しさん 2014/03/26(水)01:39:59 ID:ItGeFWUaJ

         ***

     医者は、その患者の脳を見て、驚愕するばかりだった。
     その脳味噌には巨大な穴が空いていた。しかし、医者を驚かせたのはそれではない。そこに更に恐ろしいものがあったのだ。
     その空洞には細長い紐のようなものが詰まっていた。それはもちろん紐ではない。

     ――それは所謂、寄生虫だった。


    おしまい

    一時間クオリティは伊達じゃないね


    83: 名無しさん 2014/03/26(水)01:42:01 ID:ItGeFWUaJ

    これで一年分のストックがなくなりました。結構書いてたつもりだけど案外少ない……。

    ストックがたまったらまたうpしにきますねー。


    84: 名無しさん 2014/03/26(水)01:46:28 ID:w9g1RBsos

    風呂はいってた
    おもしろかったよ!


    85: 名無しさん 2014/03/26(水)01:48:04 ID:ItGeFWUaJ

    >>84
    ありがとう!


    86: 名無しさん 2014/03/26(水)01:55:31 ID:FI0kpp31j

    こっちの創作文芸板にも遊びに来てくれよな!


    87: 名無しさん 2014/03/26(水)01:58:41 ID:ItGeFWUaJ

    >>86
    そうさせてもらうよ!


    88: 名無しさん 2014/03/26(水)02:12:19 ID:bDMIYi5sN

    寄生虫ってなんでや
    気になって寝れんやろ!


    89: 名無しさん 2014/03/26(水)02:12:57 ID:ItGeFWUaJ

    >>88
    はじめの方に食った種が寄生虫の卵だった的な!


    90: 名無しさん 2014/03/26(水)02:16:30 ID:bDMIYi5sN

    なるほど
    高校生とは思えないけどどんな作家読んでる?


    91: 名無しさん 2014/03/26(水)02:20:33 ID:ItGeFWUaJ

    >>90
    読書歴なら、小五で東野圭吾や上橋菜穂子、中一で星作品七割、その頃にIWGPシリーズも。
    ラノベ読み出したのもその頃かなぁ。
    禁書は最近の数冊以外は読んでるし、型月作品も好き。

    まともな文学小説読んだ記憶ないです。


    92: 名無しさん 2014/03/26(水)02:23:13 ID:ItGeFWUaJ

    >>90
    あっ最近だとまた守り人シリーズ読んだり、Fateシリーズのいろいろ読んだりしてます。


    93: 名無しさん 2014/03/26(水)02:25:40 ID:s0FiRfPRQ

    わりとよかったけど、ショートショートにしては文字数多い気がする。


    94: 名無しさん 2014/03/26(水)02:27:07 ID:ItGeFWUaJ

    >>93
    かなぁ。
    文庫規格にしたらたぶん3~4ページぶんくらいだと思うけど、もっと淡々とした文体の方がいいのかな?


    95: 名無しさん 2014/03/26(水)02:30:24 ID:s0FiRfPRQ

    >>94
    3?4ページはショートショートの中でもずいぶん長い方だねえ。
    淡々とテンポ良く読ませないと、途中でだれてしまうよ。


    96: 名無しさん 2014/03/26(水)02:31:05 ID:ItGeFWUaJ

    >>95
    なるほど……参考にさせていただきます。


    97: 名無しさん 2014/03/26(水)02:37:28 ID:bDMIYi5sN

    おもしろかった乙


    引用元: 暇だから俺が書いたショートショートうpしようと思う



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